<2025.07.01 「月間まちづくり」に掲載されました>鹿児島市にある南日本ハウスからのお知らせです。

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▶︎「月間まちづくり2025年7月号 vol.85」に掲載されました

不動産ネットワークを強みに 中大規模木造の普及に挑む
南日本ハウス(株)開発営業課課長 大平将司氏


鹿児島県の地場有力不動産会社である南日本ハウス(樹(鹿児島市)は、今年5月から法人向けに特化した新ブランド「南日本ハウスの大規模木造建築」を立ち上げ、事業をスタートしている。地元金融機関などとのネットワークを強みに、介護施設や事業所、倉庫などの木造建築物の供給に挑む。そこで、事業の責任者である開発営業課課長・大平将司氏に、話を聞いた。

木造非住宅を新たな事業の柱に
南日本ハウス株式会社は、鹿児島市を中心に地域密着で不動産・建築事業を展開。2018年に経済産業省から「地域未来牽引企業」(地域経済牽引事業の担い手となり得る事業者)として認定されるなど、鹿児島県を代表する不動産事業者の1 つである。建築事業で、24年度に新築木造住宅110件(注文・分譲の合算)、リフォーム96件の施工を行った実績がある。また、不動産事業においては賃貸住宅の仲介管理や土地建物の売買、さらには各種収益物件の賃貸、管理、売買なども手がけている。

地域密着で事業を展開している同社だが、「今後の住宅市場が確実な縮小を迎えるなかで、経営陣は新たな事業の柱を築かなければならないという強い危機感をもっています。それが大規模木造建築(木造非住宅)事業をスタートする原動力となりました」と、新ブランドの立ち上げに関わり、事業の責任者を務める大平氏は話している。

主要なターゲットとなるのは、3 階建程度までの低層建築物。具体的には延床面積500rrlを超える建築物で、介護•福祉施設、倉庫、事務所、店舗などとしている。この種の建築物について数多くの実績と恵門知識を有するコンサルティング企業や設計事務所などとタッグを組み、設計から施工、アフターメンテナンスまで、ワンストップで対応できる体制を構築している。建槃物の特徴については、(1) 高付加価値・低コスト、(2) エ期短縮、(3) 高品質、(4) 性能、(5)環境、(6) 不動産ネットワーク、の6点を挙げている。

鉄骨造•RC造と比べ20%のコスト低減

このうち、「高付加価値・低コスト」について、同社では具体的に【グラフ1 】のような具体的なイメージを提示。また、同社の専用ホームページには、「鉄骨造・RC造に比べ20 %のコストダウン」とも明示している。このように明快に木造非住宅のコストメリットを打ち出しているケースは、同種の事業を展開する事業者のなかでは、実はまだ少ない。

低コストを実現する要因の1つが、地元製材企業から調達するプレカット材(住宅用一般流通材)の活用だ。同社で供給する戸建住宅に利用されてきたもので、特別な施工技術を必要としないこと、建築に習熟した人員を確保しやすいことなどのメリットがある。そのため「短期施エ」を実現でき結果的に低コスト化が図られるわけである。大平氏は「鉄骨造やRC造の建築コストが高騰しているが、3階建程度までの大規模木造建築は、それらに比べて十分なコストパフォーマンスを期待できるようになってきた」と話している(【グラフ2】参照)。

なお、「高品質」については、プレカット材による住宅建設で培った技術や人材面がベースであることに加え、「性能」については、同じ床面積で比較した場合、木造は鉄骨造やRC 造に比べ躯体重量が軽く、それが耐震性の面で優位としている。「環境」については、再生可能な資源で、しかも鹿児島県などの九州を中心に調達する木材であることを挙げている。さらに、性能については近年の法改正や技術的進展により、木造による耐火・準耐火建築物の建設が可能となっており、それも南日本ハウスが木造非住宅へ参入するにあたっての追い風となっている。

事業用不動産のネットワークを生かし

南日本ハウスが取り組む木造非住宅事業で、何より注H すべきものだと考えられるのが「ネットワーク」である。同社は法人向け事業不動産として、店舗・事務所、工場・倉庫などの開発を手がけてきた。具体的には、不動産事業者はもちろん、士業(弁護士・税理士など)、建築事業者、一般企業・団体との協力体制が構築され、市内最大級の不動産在庫数と取引実績を有している。「それは銀行や信用金庫など、地元の金融機関係者との密接な関係を構築していることが背景にあり、とくに当社の強みといえることです」と、大平氏は強調する。

そのうえで、「近年、資材価格の高騰などを要因に、賃貸ビルの供給が頭打ちになっています。そうした状況を受けて、金融機関側は新たな融資先を求めるようになりました。当社は、融資先となる企業とともに、そのビジネスに適した土地を探し、その立地性に合わせた最適な建物を提案します。そこに木造によるコストダウンという付加価値を提供。その結果として、「土地があるのに建てられない」「鉄骨造やRC造では採算が合わない』といった、法人の悩みを解消したいと考えています」と話している。

南日本ハウスの取り組みはSDGsへの貢献という点でも注H される。木造建築はコンクリート使用量が少なく、CO2排出量の低減にも寄与するからだ。金融機関も近年、環境配慮型融資を重視する傾向があり、同社が取り組もうとしている木造非住宅は、そうした金融機関の姿勢と相性が良いという点も指摘できそうだ。

さて、木造非住宅の分野は「川上」(林業など)、「川中」(製材・木材加工業など)、「川下」(設計・建設事業者など)の3つのカテゴリーで成り立つが、川下のプレイヤーは多岐にわたるという特徴がある。具体的には、設計・建設事業者だけでなく、不動産や金融機関、さらには建築主も川下に分類される。ただ、不動産事業者らの参入事例は、鹿児島県内だけでなく、九朴I 全体でもいまだに少ない。全国的に見ても、大手不動産会社や大手ゼネコンが木造の高層ビルの建設に乗り出していたり、中央資本の事業者が本社ビルなどの建替えなどで、徐々に存在感を示している状況だ。

金融機関にも、木造非住宅の普及への理解がおよんでいないケースは依然としてある。そうした状況下にあって、今回の南日本ハウスによる木造非住宅の普及取り組みは、不動産事業者が金融機関や建築主など新たなプレイヤーを呼び込む事例であり、そのこともまたとくに注目される点である。

口ードサイド店舗での展開も視野に

ところで、近年になって各種全国チェーンが、低層の木造非住宅で店舗をオープンするケースが見られるようになった。九州に限ってみても、(梱セブンーイレブン・ジャパン(東京都千代田区)が福岡市早良区に昨年8 月、「セブンイレブン福岡ももち店」をオープン。(株良品計画(東京都文京区)は同年9 月、佐賀県唐|津市と大分県B 田市にオープンしている。なお、両者とも農林水産省と「建築物木材利川促進協定」を締結しており、無印良品の佐賀市と日田市の店舗は国内初の木造建築店舗である。

これらの事例では、環境配慮型の建物であることを国が認め ドサイド店舗のニーズにも今る『ZEB( ※)』認証を取得。このようにロードサイドでビジネスを行う全国チェーンは、環境負荷低減に貢献する木造建築物をSDGsの一環として、各地域に展開しようとしているわけだ。

大平氏は、「このような動きを受け、ある飲食系の全国チェーンから鹿児島市内での木造店舗開設に関する問い合わせがありました。実現可能かどうかはこれからですが、低層のロードサイド店舗のニーズにも今後、積極的に対応していきたいと考えています。市内には高層ビルの新築案件は多くありませんが、低層建築物のニーズは底堅いですし、当社の木造建築物事業はそれに適しているためです」と話す。(田中直輝)

※ 建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロかマイナスにすることを目指した建物
※「月間まちづくり2025年7月号 vol.85」記事中の文章を転載

九州の建設・不動産情報誌 月間まちづくり 2025年7月号 vol.85